KISS原則とは?シンプルで強い設計を実現するエンジニアの思考法

KISS原則(Keep It Simple, Stupid)は、ソフトウェア設計において複雑さを避け、シンプルで保守性の高い構造を実現する重要な考え方です。本記事では、KISSの背景、メリット、実践方法、注意点までをわかりやすく解説します。

「ソフトウェアは動けばいい」―― そう考えていた頃に比べ、今や開発者には可読性・保守性・スピードがより強く求められています。

その中核をなす設計思想のひとつが、**KISS原則(Keep It Simple, Stupid)**です。

この記事では、KISS原則の意味・歴史・現場での活用法・注意点までを体系的に解説します。


KISS原則とは?

KISSは何の略か?

KISS = Keep It Simple, Stupid

直訳:「シンプルにしておけ、バカでもわかるくらいに」

これは「設計やコードは、必要以上に複雑にしてはいけない」という思想です。

背景:軍用設計に由来する思想

KISSは1960年代にアメリカ海軍の航空機設計者ケリー・ジョンソンが提唱したと言われています。

「現場でレンチ1本で修理できるように設計せよ」という実践的な哲学がルーツです。


なぜKISS原則が重要なのか?

複雑さが生む典型的な問題

問題説明
保守性の低下修正時に全体への影響が見えづらく、バグや副作用の温床となる
開発スピードの遅延理解や改修に時間がかかる。属人化しやすく、チームでの連携も困難になる
ユーザビリティの悪化操作や仕様が複雑になることで、エンドユーザーの体験も損なわれやすい

KISSがもたらすメリット

  • 保守が容易:構造が単純で変更範囲も明確
  • テストしやすい:条件分岐が減り、ユニットテストの負荷も軽減
  • 学習コストが低い:新しい人がチームに入ってもキャッチアップしやすい
  • 再利用性が高まる:単機能のコンポーネントは再利用しやすくなる

KISS原則を現場で活かす3つの視点

1. 不要な機能はつけない(YAGNIマインド)

「あとで必要になるかも」では実装しない。今必要な機能に集中しましょう。

// 悪い例:多機能を先回りで実装している
function exportReport(type, format, includeLogs, compress, encrypt) {
  // 分岐だらけでテスト困難に…
}

// 良い例:最低限必要な要素から着手
function exportReport(format) {
  // まずはPDF出力に集中
}

2. 単一責任を守る(SRPと親和性あり)

1つの関数・モジュールは、1つの目的のために存在するように設計しましょう。

// 責務が混在している例
function handleUserRegistration(user) {
  saveUser(user);
  sendWelcomeEmail(user);
  logAction("registered", user);
}

// 単一責任に分離
function registerUser(user) {
  saveUser(user);
  notifyNewUser(user);
}

3. 読ませない工夫(命名で説明する)

「見ればわかる」状態を目指すのがKISS的です。コード内コメントより命名の工夫で“意図”を明示しましょう。

悪い例良い例
f(x)
calculateShippingCost(cartItems)
a = b * c - d
finalPrice = basePrice * taxRate - discount

KISS原則の注意点と限界

単純すぎる設計が逆効果になる場合もある

「とにかくシンプルに」と意識しすぎて、柔軟性を犠牲にした設計になるケースもあります。

  • 拡張性を想定しない設計
  • 将来の仕様変更に対応できない構造
  • 依存関係を全て避けて逆に重複が発生

KISS ≠ 最小構成、ではなく、必要以上に複雑にしない設計判断が肝心です。

DRY原則とのトレードオフに注意

  • *DRY(Don't Repeat Yourself)**は、重複を避ける原則
  • KISSは、構造を複雑にしない原則

この2つは共存できますが、DRYを過剰に適用して抽象化が進みすぎると、KISSに反する場合があります。


他の原則との関係性

原則補足説明
YAGNIKISSと同じく「やりすぎ防止」にフォーカス
DRY相性は良いが、適用しすぎると抽象度が上がりすぎる可能性あり
SOLIDのS(単一責任原則)KISSを支える具体的な設計指針のひとつ
TDD(テスト駆動)テストしやすい構造=シンプルな構造=KISSに沿う設計になることが多い

まとめ:KISSはエンジニアの思考リセット装置

KISS原則は、コードや設計が「いつの間にか複雑になってしまった」状態にブレーキをかける思考の道具です。

  • これは本当に必要か?
  • 今の要件を満たすだけで十分では?
  • 他の人が見ても理解できるか?

こうした問いを日常的に持つことで、開発者としての成熟度も高まり、チーム全体の生産性向上にも繋がります。

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「シンプルであることは、最高の洗練である。」

— レオナルド・ダ・ヴィンチ

KISS原則は、ソフトウェア設計だけでなく、プロダクトづくりや人生のあらゆる場面で活きる哲学です。

編集部

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