『ドメイン駆動設計(DDD)』とは?複雑なソフトウェアを整理する思考法の基本
『ドメイン駆動設計(DDD)』は、複雑なビジネスロジックを整理・表現するための設計アプローチです。本記事では、DDDの基本概念・用語・適用の文脈をやさしく解説します。
ソフトウェアが扱う問題領域(ドメイン)が複雑になればなるほど、設計の難易度は上がります。
機能追加のたびに設計が崩れ、意図が見えなくなっていく――そんな状況を解決するためのアプローチが**ドメイン駆動設計(Domain-Driven Design, DDD)**です。
本記事では、DDDの基本的な考え方とキーワードを中心に、その価値と適用の文脈を解説します。
DDDとは何か?
DDDとは、**「ソフトウェアの設計をビジネスの意味(ドメイン)を中心に構築する」**というアプローチです。
Eric Evans の著書『Domain-Driven Design(2003)』で提唱され、モダン設計の定番手法となっています。
エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計: ソフトウェアの核心にある複雑さに立ち向かう
なぜDDDが必要なのか?
- 要件が複雑で、仕様変更が頻繁にある
- 技術よりも、ビジネス理解が設計の成否を分ける
- 複数人・複数チームでの設計・開発が長期間続く
このような状況では、「設計の土台をビジネスの意味と一致させる」ことが重要になります。DDDはそのための指針です。
DDDの中核概念:ユビキタス言語と境界づけられたコンテキスト
✅ ユビキタス言語(Ubiquitous Language)
-
ドメイン(業務)の重要概念をチーム全員が共通の言葉で表現する
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コード、仕様、テスト、ドキュメントが同じ言葉でつながる
→ コミュニケーションと設計のブレを減らす
✅ 境界づけられたコンテキスト(Bounded Context)
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同じ用語でも意味が違う状況を明示的に「コンテキスト」で区切る
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「会計の顧客」と「CRMの顧客」は役割も属性も異なる
→ モデルの衝突を避けるための設計的区分
その他の代表的なパターン・用語
用語 | 説明 |
---|---|
エンティティ(Entity) | 同一性(ID)を持つオブジェクト。例:ユーザー |
値オブジェクト(Value Object) | 属性のみで区別される。例:住所、金額 |
集約(Aggregate) | 一貫性を保証するオブジェクトの集まり |
集約ルート(Aggregate Root) | 集約の入口。例:注文(Order) |
ドメインサービス | エンティティに属さないビジネスロジックを担う |
リポジトリ | 集約の取得・保存のための抽象化 |
DDDの適用に向いている状況/向かない状況
向いているケース
- 業務知識が複雑でドメインの理解が重要
- モデルの言葉がバラバラで混乱している
- チーム間の共通理解を強化したい
向かないケース
- 要件が明快でCRUD中心
- 設計よりスピードが重視される
- 単純なデータ処理が中心で、ビジネスルールが少ない
DDDとモダン開発との関係
DDDはアーキテクチャにも大きな影響を与えています。
- オニオンアーキテクチャ(ドメイン中心の層構造)
- CQRS(読み書きを分離して複雑性を抑える)
- マイクロサービス(各サービス=1つのコンテキスト)
「ドメインを中心に設計する」という思想は、今日の複雑系ソフトウェア設計の基盤として広く取り入れられています。
オニオンアーキテクチャ(ドメイン中心の層構造)
オニオンアーキテクチャ(Onion Architecture)は、DDDの「ドメインを設計の中心に置く」という思想を反映したアーキテクチャです。
- 中心にドメインモデル(エンティティ・値オブジェクト・ドメインサービス)
- その外側にアプリケーション層
- さらにその外にインフラストラクチャ層(DB、UIなど)
この構造により、ドメインモデルが外部技術に依存せず、純粋なビジネスロジックとして保たれるというメリットがあります。
CQRS(読み書きを分離して複雑性を抑える)
CQRS(Command Query Responsibility Segregation)は、「コマンド(更新)」と「クエリ(取得)」を別々のモデルで扱うアーキテクチャパターンです。
- コマンドモデル:集約などで一貫性を保ちながら状態を変更する
- クエリモデル:表示や検索に特化し、パフォーマンス重視で設計される
複雑な業務ドメインでは、**「更新の厳密性」と「表示の柔軟性」**の両立が求められ、CQRSはその分離を明確にします。DDDの「集約」「ユースケース駆動設計」にもマッチします。
マイクロサービス(各サービス=1つのコンテキスト)
DDDの「境界づけられたコンテキスト(Bounded Context)」の考え方は、マイクロサービス設計と非常に親和性が高いです。
- 各サービスは1つの明確なビジネスコンテキストに対応
- ユビキタス言語もサービス内で一貫して使える
- サービス間のインタフェースは明確で、モデルの衝突を防げる
結果として、チームごとに独立してスケールできる開発体制が実現しやすくなります。
まとめ:DDDは“ドメインと人間の橋渡し”をする設計哲学
DDDは、「技術よりも意味を」「構造よりも会話を」重視する設計アプローチです。
- ドメインの言葉で考える
- コンテキストを分けて衝突を防ぐ
- コードに意味を織り込む
それは技術者とビジネスの間をつなぎ、わかる設計・進化できる構造を実現する強力な武器となります。

編集部